札幌地方裁判所 昭和40年(ワ)130号 判決 1969年1月30日
原告 国際常盤観光株式会社
右代表者代表取締役 海道二太郎
右訴訟代理人弁護士 土井勝三郎
同右 倉田靖平
右訴訟復代理人弁護士 岩谷武夫
被告 生水清作
<ほか二名>
右被告等訴訟代理人弁護士 二宮喜治
同 山根喬
主文
1、被告桐越吉郎は別紙第二目録記載の(B)、被告生水清八は別紙第三目録乙欄記載の(1)ないし(3)の各土地につき、いずれも原告に対し現物出資を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2、被告生水清作は別紙第一目録乙欄記載の(1)(2)、被告桐越吉郎は別紙第二目録乙欄記載の(1)(2)、被告生水清八は別紙第三目録乙欄記載の(4)ないし(6)の各土地につき、原告のため農林大臣に対し、農地法五条の許可申請手続をせよ。
3、被告らは原告に対し、前項の許可があったときは、それぞれ前項記載の各土地につき現物出資を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
4、訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一当事者双方の求める裁判
一、原告(請求の趣旨)
主文第二項のうち「農林大臣」とあるのを「北海道知事」とするほか、主文と同旨の判決。
二、被告ら
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決。
第二当事者間に争いのない事実
1、原告は、遊戯場の経営、旅館業ならびに飲食料品小売業等を目的とし、昭和三七年五月二五日設立登記を経て設立された株式会社である。
2、被告らはいずれも原告設立の発起人であり、それぞれ次のとおり現物出資による株式引受をなし、その旨定款に記載された。
現物出資者
目的たる財産
目的財産の価格
与える株式の数等
被告
生水清作
別紙第一目録甲欄記載の土地
一五〇万円
額面株式三、〇〇〇株
(一株五〇〇円)
被告
桐越吉郎
別紙第二目録甲欄記載(A)および(B)の土地
一一八万六、〇〇〇円
額面株式二、三七二株
(一株五〇〇円)
被告
生水清八
別紙第三目録甲欄記載の土地
九七万五、〇〇〇円
額面株式一、九五〇株
(一株五〇〇円)
3、そこで、被告生水清作は、別紙第一目録甲欄記載の土地につき、札幌法務局昭和三七年六月四日受付第三、四四一号、被告桐越吉郎は別紙第二目録甲欄記載の(A)および(B)の土地につき、同法務局昭和三七年五月三一日受付第三三、七二四号、被告生水清八は別紙第三目録甲欄記載の土地につき同法務局昭和三七年六月四日受付第三四、四一七号をもってそれぞれ現物出資を原因とする所有権移転登記手続をした。
4、ところが、昭和三七年一〇月ごろ札幌市豊平農業委員会から、被告らの現物出資にかかる土地の一部が現況農地であることを理由に農地法上の許可を得ないでされた前記3の各所有権移転登記は不法である旨注意があった。
5、原告と被告らは、昭和三七年一一月二六日前記3の各所有権移転登記の抹消登記を経由した。その後、いずれも昭和三七年一二月二四日、被告生水清作所有名義の別紙第一目録甲欄記載の土地について同乙欄のとおりに、被告桐越吉郎所有名義の別紙第二目録甲欄記載の(A)の土地について同乙欄のとおりに、また被告生水清八所有名義の別紙第三目録甲欄記載の土地について
イ 札幌市真駒内五〇番地の一
原野 二町二畝一五歩
ロ 札幌市真駒内五〇番地の二
原野 一町二反一畝二〇歩
に各分筆登記が経由された。次いで被告生水清八所有名義の右各土地については昭和三九年七月六日右イの土地を別紙第三目録乙欄記載の(1)ないし(3)、昭和三九年七月一〇日右ロの土地を別紙第三目録乙欄記載の(4)ないし(6)のとおりに各分筆登記が経由された。
6、ところで、被告生水清作所有名義の別紙第一目録乙欄記載の(1)の土地の一部および(2)、被告桐越吉郎所有名義の別紙第二目録乙欄記載の(1)の土地の一部および(2)、被告生水清八所有名義の別紙第三目録乙欄記載の(4)(5)(6)の土地はいずれも農地である。別紙第一目録乙欄記載の(1)の土地および同第二目録乙欄記載の(1)の土地はいずれも地目の表示上原野であるが、その一部は農地の現況を呈しているのである。
第三争点
一、原告の主張
1、前記各事実に基づき、いずれも現物出資義務の履行として、原告に対し、被告桐越吉郎は別紙第二目録記載の(B)、被告生水清八は別紙第三目録乙欄記載の(1)ないし(3)の土地につき各所有権移転登記手続ならびに被告生水清作は別紙第一目録乙欄記載の(1)、(2)、被告桐越吉郎は別紙第二目録乙欄記載の(1)、(2)、被告生水清八は別紙第三目録乙欄記載の(4)ないし(6)の土地につき北海道知事に対する農地法五条の許可申請手続およびその許可があったときは所有権移転登記手続をする義務がある。
2、かりに右主張が理由ないとしても、昭和三七年一一月二六日原告代表者海道と被告らが協議した結果、一たん前記3のとおりなされた所有権移転登記の抹消登記手続をした後被告らにおいて農地と非農地とに分筆登記を経由した上、非農地については直ちに原告に所有権移転登記手続をし、農地については、農地法五条所定の許可を得て所有権移転登記手続をなすことを約したからその履行義務がある。
3、被告らの後記二、2の主張事実は否認する。
二、被告らの主張
1、本件土地は、いずれも農地法二条に定める農地あるいは採草放牧地であり、原告は農地法上農地を取得する資格がないから、もともと北海道知事の許可は得られないものであり、したがって、本件現物出資は、不能の条件を付した法律行為であって無効である。
2、かりに本件現物出資が有効であるとしても原告は被告生水清作に対し別紙第一目録記載の、被告桐越吉郎に対し別紙第二目録記載の、被告生水清八に対し別紙第三目録記載の各土地をそれぞれ昭和三七年一二月二五日ころ無償で譲渡したものである。
そして被告らの引受けた株式の払込については、後日原告と被告ら間で協議の上決定することとされていたのであるが、現在までその協議がなされていないものである。
3、被告らが原告に対し、原告の主張2の約束をしたことは否認する。
第四証拠≪省略≫
理由
≪証拠省略≫によると、本件各土地は原告がこれを利用してホテル、ヘルスセンターおよび各種屋外遊戯、運動施設の経営等の事業を行う目的に供するため現物出資されたものであることが認められ、この事実に当事者間に争いのない前記第二の各事実を総合して考えると、被告らはそれぞれ原告に対し、本件各土地のうち非農地の部分については直ちに、農地の部分については農地法五条所定の農林大臣の許可あることを条件にいずれも現物出資を原因とする所有権移転登記手続をなすべき義務があり、かつ農地の部分についてはその前提として農林大臣に対し右許可申請手続をなすべき義務あるものといわなければならない。しかして別紙第一および第二目録記載の各(1)の土地のうち、その一部は農地であり、かつその範囲を特定するに足りる資料がないから、全部について農地法五条の許可申請手続をなすべきものとするほかない。
二、被告らは、原告は農地を取得する資格がないから、農地である本件土地の現物出資は不能の条件を付した法律行為であって無効であると主張するが、前記認定の事実によって既に明らかなとおり、原告は農地である本件土地所有権を農地としてではなく、それ以外のものにするために取得しようとしたものであり、この場合もし農地法五条による農林大臣の許可があれば、その所有権を取得できることはいうまでもないから、本件現物出資が不能の条件を付した法律行為であるとはいえない。また被告らの前記主張が本件の場合行政事務処理上内部的に定められた農地法五条の許可基準に適合せず、同条による許可申請手続をしても却下される公算が強いこと(証人高橋岩太郎の証言によるとこのことが窺われる)を指摘しようとするものであるとしても、そのこと自体は本件現物出資契約の効力に消長を及ぼすものではない。いずれにしても被告らの前記主張は採用できない。
三、次に被告らは、原告は昭和三七年一二月二五日ころ各被告に対し、それぞれ別紙第一ないし第三目録記載の各土地を無償で譲渡したと主張し、被告らの各本人尋問の結果は右主張に符合する。しかし、これらの供述は後記事実に照して信用できない。かえって、≪証拠省略≫によると、本件現物出資が約された当時、本件各土地の地目はいずれも原野となっていたため、前記第二、3のとおり一旦は原告に対し所有権移転登記が経由されたが、その後これらの土地について原告が整地のための工事を始めた昭和三七年一〇月ごろ前記第二、4のとおり、札幌市豊平農業委員会副会長高橋岩太郎より本件土地の一部が地目の表示に拘らず現況は農地であることを理由に農地法五条の許可なくしてされた前記所有権移転は違法であるとして一旦原状に戻した上、改めて所定の手続を経由すべきである旨の勧告を受けたので、原告代表者と被告らが協議の結果、右勧告に従うこととして、前記第二、5のとおり、前記所有権移転登記の抹消登記手続を経由したことが認められるのであって、被告ら主張のように原告が被告らに対して本件各土地を無償で譲渡した事実はないものといわねばならず、この点の被告らの主張もまた採用できない。
四、なお、原告は被告らに対し農地法五条の許可申請手続をなすべく求めるにつきその相手方を北海道知事としているが、農地法五条の規定によると、同一事業の目的に供するため二ヘクタールをこえる農地について所有権を取得する場合には農林大臣の許可が必要とされているから、目的農地の面積が二ヘクタールを超える本件の場合原告の右見解は失当といわねばならない。しかしながら原告の本件請求はつまるところ農地法五条所要の許可申請手続をなすよう求めるところにあると解せられるから、農林大臣に対する許可申請手続をなすべき請求を包含すると解するのが相当である。
五、よって原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤安弘)
<以下省略>